前回は消費者物価の変化を、太平洋戦争が始まる直前の1940年から2003年までの動きとして見ました。その時に「差のグラフ」を使用しましたが、差のグラフの印象を一言で言いますと、「消費者物価というものが一定の比率で上がっている」ということでした。
例えば戦後のインフレ、石油ショックの時のインフレ、そして物価が安定している時代がありましたが、それも含めて全体として消費者物価は一定の割合で変わってきたという風に感じられたと思います。
そこで今度は本当のお金の話を理解するために、「比のグラフ」を使って同じく物価の変化を見てみたいと思います。そのグラフを下に示します。
このグラフは横軸に差のグラフと同じように西暦を取り、縦軸にこれも同じく消費者物価指数を取っています。指数の取り方は2000年を100として描いているのでこれも前回と同じですが、縦軸の目盛を常用対数で取っているところだけ異なります。
「比のグラフ」では、「差のグラフ」とは全く違う様相を呈しています。
太平洋戦争が始まる直前の1940年から、日本社会が安定する1950年までの間、物価は非常に激しい速度で上がり、1940年の指数が0.1に対して、その10年後の1950年には実に10から20ぐらいになっています。つまり、この10年間で物価は100倍から200倍に上がったということが言えます。
これに対して1950年から2000年までの50年間は多少の上がり下がりがありますけれども、ほぼ一定のペースで上がっているということがわかります。
このように差のグラフと比のグラフで印象が大きく違うということにまず注目してもらいたいと思います。お金というのは10円などの「絶対値」に意味があるわけではなくて、去年のお金と今年のお金はどのぐらい違うかが問題です。
その意味で日本の1940年から2000年までというのは、明確に二つの時期に分けなければなりません。1940年からの最初の10年は非常に激しいインフレの時代、その後、社会が安定してくると、一定の比率で穏やかに消費者物価が上がるということです。
そして、この穏やかに消費者物価の上がる速度を数学的に処理しますと、平均的に1年に4.3%、つまり1.043倍ずつ上がっていくという計算になります。このグラフで1.043倍ラインが引かれているのはその意味です。
平均して1年に4.3%というのは、去年の物価で1000円のものが今年は1043円になるということです。
それでは、もう少し詳細に見てみましょう。戦後の安定した時期も、1950年から石油ショックの起こる1973年までを前期とすると、この時期はほぼ1.043倍ラインで上昇しています。
後半部分の1973年から2003年の間は、最初に石油ショックのインフレがあり、そこで物価の上昇が終わっているように見えます。つまり、30年間の平均を見ると1.043倍ラインで良いのですが、最初の10年間と次の20年間で違うということです。
このことは「財産の運用」を考える時には重要な意味を持っています。
まず、1940年から1950年の間は財産というものをお金で持っていても無意味な時代です。例えば1940年に、100万円を持っていた人はそれから10年後には物価が100倍になって1万円分の価値になってしまうのですから、悔しい思いをするだけ損ということになります。
社会が安定してくると、1950年に100万円を持っている人は1970年になってもあまり変わりません。実際には半分ぐらいの価値になるのですが、貯金したり、株で運用すれば目減りを減らすことができます。また、財産の運用の仕方で大きな差の出ない時代でもあります。
特に考えなければならないのは、石油ショックの後の1973年からの30年間です。1973年から1983年の10年間で物価が約2倍になったので、人によってはこの時期と1983年から2003年までの20年間を分けて考えたくなるでしょう。
そのように考えた場合、1973年からの10年間はできるだけお金を持たないようにして物や株にお金を移し、1983年以降は、今度はできるだけ現金を持つということをすると財産の運用がうまくいくわけです。つまり1973年からの時代は財産の運用次第でお金が変わる時代でした。
でも、もう一つ深く考えてみると、グラフが「過去の結果」を示したものであることに注意しなければなりません。今後どうなるかということは人間にはわからないものです。その点ではあまり細かく考えると失敗するので、いっそのこと「1950年から2000年まで一定の比率で物価が上がる」と考えていた人の方が成功しているかも知れないのです。
つまり、人間はインフレになったりして一時的に動揺しますが、世の中は平穏無事である限り、「ほぼ年率4.3%ぐらいのペースで消費者物価は上がっていく」、そう思った方が成功する場合が多いことも指摘したいと思います。
経済は得てしてこのグラフのように「過去のグラフ」を見てものを考えます。それ以外に手がないので仕方ないのですが、過去は過去で未来ではありません。そして財産を運用する場合は未来なので、この違いをどのように考えるかが個人によって違うのです。
さて、消費者物価の全体像というものを差のグラフと比のグラフ二つで考えてきました。そして、この二つのグラフをもう一度見比べてみると色々なことがわかってくると思います。
戦争のような状態と、平穏無事に過ごしている状態が大きく違うということ、差のグラフでは戦後のインフレと石油ショックの後のインフレが同じように見えたのに、比のグラフでは大きく違うことも理解できたと思います。
次回からは物価の変化がどのような原因で起こるのか、我々は物価の変化だけで財産や生活を守ることができるのか、さらにお金を儲けることができるのかについてお話ししたいと思います。
つづく