地球の気温はどうなってきたのか?
(ペットボトルのリサイクルのシリーズを終わって、地球温暖化についてゆっくり考えてみたい。でも、この世には「お説教型」の人が多く、私が「北極の氷が融けても海水面があがらない」と説明すると、「武田先生は地球がどうなっても良いと言うのですか!」とお叱りを受ける。私は環境はとても大切だと思う。でも自分がそう思うから、ウソをついても他人を説得しようとは思わない。事実が正確わからないと正しい判断はできないし、民主主義なのだから本当に大切な情報を国民に届けることが大切と思っているだけである。私は国民は間違った情報を提供しないと正しい方向に行かないというほど愚かではないと考えている。)
ところで、最近の気温の動きは明らかに異常だが、長い目で見て今の日本が暖かくなっているのか、冷たくなっているのかはなかなか判りにくい。まずここ100年間の気温を見てみよう。
1880年頃の北半球の平均気温は14.6℃ぐらいだったが、今では15.3℃にもなっている。130年間で約0.7℃上昇した。だから「気温が上昇している」というのは確からしい。でもご年配の方なら記憶していると思うが、上のグラフをよく見ると1940年代から1970年代までの30年間、気温は下降していた。この頃、氷河期がくると騒がれ、気温の下降によって作物がとれなくなった。
だからあまり慌てて「温暖化している」といわない方がよい。でも現代の社会は情報が速いので30年も立つとみんな昔の事は忘れてしまう。つまりあふれるような情報で私たちの頭は毎年、毎年、違うことで洗脳されているような物だからである。
地球温暖化の原因も同じことが言える。日本ではもっぱら「二酸化炭素が犯人」と言われているが世界的には「太陽の活動が盛んになっているから」「二酸化炭素と同じ温暖化効果を示す水蒸気の量が増えているから」という説もある。だから、「もしかしたら二酸化炭素が地球温暖化の原因かも知れない」という程度にしておいた方がよいだろう。上の図でも気温の動きを示す赤の線と太陽活動を示す緑の線は、ほぼ似たような動きである。
今度は視点を変えてもう少し長期的に見てみよう。下の図は坂口さんの論文から槌田先生が引用されたものと記憶している。槌田先生は環境問題が起こった頃、「正確にデータを見なさい」と警鐘を鳴らしていた先生で、実に偉い。私も文藝春秋で対談をしたことがあったが、誇りを感じる人だった。私もずいぶん、先生のご著書などで勉強させてもらった。これもその一つである。
古い時代の気温は尾瀬のハイマツの花粉で測定している。現在は8%ぐらいで、ハイマツの花粉は気温が高くなると減り、寒いと増える。それを利用して気温を測定している。
グラフでは右端が現在、左端が今から8000年前ということになる。4000年前にだいたい現在の気温になり、その後、一時、寒くなって最近の700年前ぐらいも寒かったことが判る。確かにこの時代を「小氷期」と言われたこともある。
でもデータは一つでは不安なので、屋久杉の炭素同位体から計った推定気温を調べてみよう。これも確か北川先生の本からやはり槌田先生が引用されていたデータと記憶している。上の図は8000年間の気温の変化だが、下の図は2000年間である。弥生時代は少し寒く、飛鳥時代から奈良時代の初めにかけて本当に寒かった。
それが奈良時代に急激に暖かくなり、気温hあ温度差で5度程度、あがっている。その後、上下を繰り返しながら、江戸時代はずいぶん寒い時期だったことがわかる。そして最近は確かに緩やかに気温が上昇している。この変化をどのように見るかは人によって違うだろう。奈良時代に急激に温度が上昇したのが「二酸化炭素が原因」でないことは間違いない。
当時は石油も石炭もほとんど使用せず、人間が自然に与える影響は微小だったである。また5度程度変化しても、それで地球がどうなるという訳でも無かった。だからといって、今問題になっている地球温暖化が安全だとか、このまま大量消費の生活を続けていて良いといっているのではない。温暖化が危ないということを言う専門家は少なくとも過去の気温の変化についてよく説明することが必要だろうと思う。
「気温が高くなると日本が沈没する」と言うのもにわかには信じられない。それなら奈良時代から平安にかけて日本の低い土地は大いに洪水に悩まされたはずであり、そのデータの整理をしなければならないだろう。
このように8000年ぐらいの長さで見ると地球が温暖化しているということをあまり断言することはできないように思われる。それではさらに長い視野で気温の変化を見てみることにしよう。今度は思い切って、数十万年前からの気温の変化である。
16万年前からの地球の気温を下の図に示した。1万年前からは横軸の尺度を引き延ばしているので、それには注意してもらいたい。まず、現代の人類が誕生する直前、イリノイ氷期というのがあって非常に寒かった。それが14万年前に終わり、地球は急激に暖かくなる。もちろん昔のことなので気温の推定精度はそれほど高くないが、2000年程度の間に12度変化しているから、100年で0.6度程度の上昇であった。
気温が上昇し、地球上の氷河が溶けたので現代人の祖先が誕生し、活躍しだしたのである。現在の生物にとって氷期は辛い。かなり温暖にならないと繁殖しない。このサンガモン間氷期といわれる時代が2万年ほど続いた。最初は、温暖化して氷が溶け、海が進出し、洪水が起こったに相違ない。その後、暖かい気温が安定し生物は大いに反映しただろう。
でもそれも長くは続かなかった。徐々に気温が下がり、やがてまた地表は氷に閉ざされるようになる。温暖な時期が長く、寒冷な時が短い方がよいのに、2万年ぐらい温暖な気候が続くと、10万年もまた生物は氷に閉じこめられ、じっと息を潜めていなければならないのである。暖かい地方の海には珊瑚が繁殖し、きらきらと光る美しい熱帯魚が泳ぎ回る。そんな風景を見ていると「命の美しさ、命の尊さ」を感じるが、それもこれも「地球が温暖化している」ことが第一条件なのである。
諸説があるが、ネアンデルタール人はすでに100万年前には誕生したと言われているが、活躍しだしたのは約20万年前で、その後3万年前に絶滅したと言われている。彼らにとってサンガモン間氷期は天国、それに続くウィスコンシン氷期は地獄だったに相違ない。
上の想像図がどの程度、正しいかは判らないが、ともかく彼らには衣服は無かった。せいぜい木の皮か毛皮などを身にまとうのだから寒いのには困っただろう。このサンガモン間氷期に繁栄したネアンデルタール人はやがてやってきたウィスコンシン氷期の中で苦しみ、ついにそのもっとも寒い3万年前(グラフでは30となっているあたり)で滅びてしまったのである。
ところで我々、現代人は20万年前に誕生したと言われているが、ネアンデルタール人に変わって地上を支配しだしたのは4万年前と言われる。ある動物は暖かい時に誕生し、気候の変化を乗り切れずに絶滅する。そしてそれに代わって厳しい時に生まれた種が次の世界を支配する。それが生物というものである。
このように、ここ数十万年は10万年ぐらい寒い期間と、2万年ぐらい暖かい期間という気候がずっと続いてきた。1万年前の急激な気温の上昇によって、現代の人間は活発な活動ができるようになった。もっとも気候が変動する時には氷が溶け、海があがり、そして暴風雨が起こる。聖書にもアダムとイブの森が徐々に姿を現すこと、海があがってくること、そしてノアの箱船の話に見られるように大洪水が起こったことが記されている。
温暖化や寒冷化は人間が二酸化炭素を出さなくても起こる。太陽は原子炉だからいつも一定に燃えている訳ではない。時には沈静化し、時には活発になる。それに応じて地球は暖かくなったり冷たくなったりする。さらに地軸の傾き、海流の流れの変化、そして大陸の移動などによって気候は大幅に変化してきたのである。
そして、現代はすでに急激な温暖化があって間氷期に入ってから1万年近く経つ。そろそろ寒冷化の危機が迫ってきているのかも知れない。私は最初、温暖化の話を聞いた時には「それは良かった」と直感した。今でも気候だけなら少し気温が高くなった方がよいと思っているが、それが化石燃料を大量に使ったことが原因なら、あまり望ましくない。
つまり、私の見解は、地球温暖化自体が怖いのではなく、仮に人間の活動で地球の気温が変化するというのが本当なら、人間の行為そのものが怖いと感じる。温暖化は我々の行動パターンのバロメーターであって、結果ではないと思う。
つづく